住まいの終活!?

住まいの終活も大切

「終活」と一口に言うけど、その中身はいろいろ、人さまざまです。最近常に切実に感じるのは「住んでいる家」にまつわる「終活」です。

80歳後半のお母さんは夫の死後も夫が建てた築40年の持家に住んでいます。2人の子供たちはすでに巣立ち、1人住まいで最近認知の症状も出てきています。結婚して近くに住んでいる長女は心配して実家を訪ねてはいますが、母親が自立して生活することに先行き不安な気持ちがあります。母親にとって夫が残した唯一の財産ですが、長女は将来的にはこの家を処分して介護施設に入ることができたらと思っています。一方長男は結婚してマンションに住んでいますが、最近コロナ離職して収入が不安定、住宅ローン返済も危うくなっています。マンションを売却して、いま母親の住んでいる家をリフォームして住みたいと考えるようになりました。でもお母さんと同居し、介護までするかは言葉を濁しています。こうして、お母さんの「住んでいる家」をめぐってお母さんの意思を(無視?)して相続人間の“住まい”への利害が早くも対立してしまっているのです。

唯一、貴重な財産の“持家”を今後どうするのかは私たち終活のなかでも大変悩ましい問題と言えます。かつてはその家は“跡継ぎ”が当然のように引き継いでくれました。

“家”は財産として承継、相続されるべきものでありました。ところが、現在の高齢者世帯の多くは「家族や親族が相続するが居住予定はない」、「どうするかは不明」という。つまり自分たちが死んだあと住む予定のない世帯が多く存在します。多くの高齢者世帯が“住まい”の終活をしない、できないでいる先送り状態、いわば「空き家予備軍」が潜在的に存在しているといえます。

「老いた家 衰えぬ街」野澤千絵 著(講談社現代新書)によると“空き家”は全国に800万戸を超え2033年には2150万戸と「実に3戸に一戸は空き家という将来がもうすぐやってくる」ことが予測されるそうです。もちろん空き家発生の原因の全ては「相続」とは限らないにしても相続に起因するものが大半でしょう。

そういえばうちの近所にもぽつぽつと空き家がある。築10年程度の立派な豪邸も老夫婦の夫が先立ち、妻が認知症の悪化で、介護施設に入所してしまい、子供2人は都会で独立して家族を持っている。その家は防犯上、常に明かりはついているが、荒れ果てた庭園を見れば一目瞭然。このままこの「お屋敷」は朽ちて行くのかと思うと他人事ながら寂しく、せつない気持ちになります。いや、自分の家もよく考えれば子供たちが住んでくれる保証はない。他人事ではない。10年、20年後にはどうなっていることやら。

前掲の著書によると、分譲マンションも築50年以上のものが大量に発生、意外に割高な「保有コスト=管理費、修繕積立金、固定資産税」から次に引継ぐひとがいない可能性が高い。そうかといって、その一部屋だけ解体や建替えすることもできない。当該マンションの全戸が空き家にならない限り、自治体は関与できないそうだ。

こうした状況は、空き家問題、土地所有者不明問題として今後ますます、深刻な社会問題となっていくことが予想されます。

令和3年4月、こうした状況を踏まえ、民法、不動産登記法等の改正がされました。相当な大改正で私もまだ不勉強で理解不十分ではありますが主な点をあげます。

①相続登記の義務化

相続又は遺贈により所有権を取得した相続人に対し3年以内の登記申請義務を課すもので、違反すると10万円以下の過料とするものです。

また、所有権登記名義人に対し、住所変更登記の2年以内の申請義務を課し、同5万円以下の過料を課すものです。

つまり数世代前の所有者が登記簿に載ったままにならないよう、所有者の登記内容を常に最新の状態に保つことで相続による所有者不明の不動産の発生を制限します。

また、登記官が住基ネットの死亡等の情報を取得し、職権で登記に表示することが可能になります。このことは「遺言保管制度」の代表相続人への通知にもことも併せて機能するのではないでしょうか。

②相続土地国庫帰属制度

相続等により取得した土地所有権で、一定の要件の土地で10年分の管理費用を前払いすることで国庫に帰属させることができる制度です。相続したものの、相続人が遠方で管理ができない、収益性が低く管理コストの負担が大きいなどいわゆる“負動産”を相続した相続人の負担軽減につながる新たな法律です。

③所有者不明土地の利用円滑化を図るための民法改正

1.財産管理制度の見直し

  • 所有者不明土地・建物の管理制度の創設
  • 管理不全土地・建物の管理制度の創設
    所有者不明や管理不全の土地建物の管理を効率化・合理化する制度。

2.共有制度の見直し

土地建物が共有状態で不明共有者がいる場合、裁判所の関与で残りの共有者の同意で共有物の変更・管理行為が可能になる制度。

3.遺産分割が長期に渡ってされていなくて、遺産の共有状態を解消するため、原則相続開始から10年を経過すると法定相続割合で分ける仕組みの創設。

4.その他相隣関係規定の見直し

これらの制度改正が、順次施行実施されていけば、所有者不明土地や管理不全の家屋などの課題が相当改善されると期待されます。また相続登記の進展や遺産分割もスムースに的確に実現されていくと想定されます。

さて、では私たちのこれからの「住まいの終活」はどうなるのでしょうか?

先の事例、40年住んだ住宅、認知症状が少しある母親、できれば施設で介護したい長女、収入減で、その住宅を利用したい長男夫婦。このような状況での選択肢は何か?

①現状維持
母親独居、相続時に引き継ぐ、母親介護施設入居時に資金不足が課題。

②長男夫婦引越し
自宅リフォーム、介護バリアフリー化などで助成金も期待できる。
長男夫婦が母親と同居介護が可能か課題。

③任意売却
母親の意思能力があるうちに。資金は母親の老後資金や介護資金や施設入居資金などで費消。

④家を手放したくない(家に居住したい)場合

「リバースモーゲージ」利用

【メリット】【デメリット】
居住を継続でき、不足の老後資金、介護資金を確保すること可能長生きすれば、最初に設定された融資限度額を使ってしまう
返済は利息のみ、元金は借入人が死亡後自宅売却で一括返済担保の土地建物が価格下落すれば、融資限度額の見直しもある
銀行融資だから、担保価値ある物件が前提、融資不可の場合もある

「リースバック」利用

自宅をリースバック運営会社に売却し、その会社と賃貸契約を結び売却後も居住できる。売却資金は老後資金の不足に充てる。

【メリット】【デメリット】
自宅売却後も同じ家に住み続けられる売却価格が市場価格より低い可能性あり
毎月リース料の支払いのみ、自宅の保有コストはなくなるリース期間が定期借家契約なので、終身住み続けることができない場合もある
所有権は移転するから自宅相続のトラブルはなくなる

少し乱暴にまとめてみましたが、住まいの終活にまつわるこの事例でも、さまざまな選択肢があります。しかし、要は現在の居住者(母親)や相続人(長男・長女)などの利害関係人がいかに話し合い、利害を調整し、「遺産としての居住用不動産」に何らかの結論を導き出すことになります。大変困難で難しい問題だと言えます。

前述の近所の「空き家豪邸」はどうでしょうか。

もう空き家になって数年が経ちます。今のところ売却の様子がありません。おそらく遠方で生活している長男、次男たちは今後も居住する可能性は低いと考えられます。

このケースもいろいろな選択肢が考えられますが、例えば地域のニーズとマッチングさせるような施策が行政サイドでできないでしょうか。

ちなみに私は地域で「高齢者の介護予防活動」の一環とし、町内で高齢者の通いの場「高齢者サロン」の運営ボランティアに関わっています。

あんまり綺麗でない「公民館」を借りて実施していますが、こうした民家で、充実した居住設備もある「空き家」を地域住民の交流の場や「高齢者サロン」の会場に提供いただくよう、行政等の仲介で賃貸できたらと良いなと思います。

朽ちてゆくのを待つ空き家も、人が使うことで、風通しがよくなり、「高齢者サロン」等を開催ごとに毎回丁寧に掃除をすればまた居住空間として生き返るはずです。

住まいの終活と簡単に言うけど、実際一歩を踏み出すことが難しい。なぜなら、今起こる困難でなく、亡くなってから問題が発生することが多く、ついつい手を付けることを怠ってしまう。まして現在の居住空間のことでもある。どうしても躊躇してしまう。

でもちょっと想像力を働かせて、残された相続人が直面する問題を想定してみてください。

例えば、農業後継者のいない農家住宅、多くの未登記の物置や倉庫など建物が存在し、敷地も亡き祖父名義のままの状態だったら、相続人はどんなに困るでしょう。

例えば古いマンションに独身1人住まい。管理会社や管理組合もなく、修繕積立金も不十分な物件で、唯一の相続人の弟はその物件を相続してどんなに困るだろうか。

あるいは、何代も前から住んでいる戸建て住宅。しかし次に住む相続人がいないことはわかっている。建物の解体費はどれぐらいなのだろうか。立地もよいのでいつでも売却することができるが、隣地の所有者と一度も敷地境界について話したことがない。境界杭がどこにあるかさえ知らない。お隣さんも世代が変わろうとしている。一度お隣さんと話して合わせて敷地測量も考えた方が良いのだろうか。 終活は、遺言や財産整理ばかりではない、こうした住まいにまつわることも重要な事柄です。大事なのは、残された者、相続人の立場に立って、想像力を働かせ、相続人の負担が少しでも軽くなるよう、課題、問題点を抽出し、面倒だけど一歩踏み出し、今自分ができることを無理せずコツコツと行うことだと思います。

遺される人たちのことも考えるのが終活